熱海の伊豆山地区の土石流に関する分析

自然災害

 2021年7月3日10時30分頃、熱海市伊豆山地区で土石流が発生し、多くの方が被災しました。この災害で亡くなられた方およびそのご遺族の方には謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

 この土石流に関して、吾作のできる範囲で独自に分析を行いました。土石流が発生した位置は、冒頭に色別標高図に重ねて図に示していますが、かなり傾斜があることがこの図からも伺えます。さらに、国土地理院の基盤地図情報の5mメッシュの数値標高モデルを利用して、土石流発生位置の標高を読み取って断面図にしたのが下の図になります。土石流の起点は標高約370mの場所でそこから河口までほぼ一定の傾斜になっていることが分かります。おおよそ水平100mで約20m上がる約20%の勾配、角度にすると約11.2°とかなりの急傾斜で、土石流の起点で大量の土砂が崩壊するとそのまま一気に河口まで流れ下ることが想定されます。土石流の動画がありましたがその破壊力はすまじかったです。そして土石流の起点で大量の土砂が崩壊したのは、報道にもあるとおり、人工地盤である盛土による影響が指摘されています。この点については今後詳細に検証されていくと思いますが、土石流発生の素因としては、起点部の盛土と急傾斜の地形ということになります。

図  土石流発生場所の標高断面図

 誘因としては降雨の影響になります。降水量については時間雨量50mm/hを超えるような非常に激しい雨は事前に記録されていないが72時間の累積降水量が非常に多かったとの報道が多くみられます。ここでは、少し視点をかえて、土壌雨量指数の値で見ていきたいと思います。土壌雨量指数というのは、気象予報士試験では必須の用語ですが一般の方には聞きなれない用語だと思います。一言でいうと、土壌雨量指数は降った雨が土壌中に水分量としてどれだけ溜まっているかを数値化したものです。大雨に伴って発生する土砂災害(がけ崩れ・土石流)には、現在降っている雨だけでなく、これまでに降った雨による土壌中の水分量が深く関係しています。ですので、大量の雨が長時間降った後、雨が小康状態となってもしばらくは土砂災害の危険度は高いままですが、そうした影響を反映することができます。現在、大雨注意報(土砂災害)、大雨警報(土砂災害)の発表基準は降水量ではなく、土壌雨量指数の値です。大雨警報により一つ上の警戒レベルである土砂災害警戒情報の発表基準は土壌雨量指数と直前の1時間降水量の複合基準で設定されています。

 報道によりますと、土石流の起点となった盛土は12年前から土砂が搬入され、平成22年8月頃には造成工事完了したとあります(ここを参照)。そこで、土石流の起点に最も近い気象観測点である熱海市の網代特別地域気象観測所(以下、網代観測所)において、造成工事完了後の2011年1月1日から土石流が発生した2021年7月3日の毎正時の時間降水量のデータから土壌雨量指数を算定し、1日の毎正時の土壌雨量指数の最大値を当該日の土壌雨量指数として、10年あまりの日別の土壌雨量指数を大きい順に並べて、そのTop5を下表に示しました。

       表  網代観測所の2011年1月1日~2021年7月3日の日別土壌雨量指数Top5

順位土壌雨量指数(mm)
1位202173206.0
2位2014106189.4
3位2011921174.4
4位201253169.4
5位201252168.8

 熱海市の網代においてここ10年あまりで最も土壌雨量指数が最も高かったのは土石流がまさに発生した2021年7月3日でした。したがって、ここ10年あまりでは土砂災害の危険度が最も高い日であったということがいえます。
 ただし、下図のように熱海市の網代観測所と土石流の起点では9km弱も離れていることからかなり状況が異なっている可能性があります。

図  網代観測所と土石流の起点の位置関係

 土石流の起点に直接の観測データはありませんが、気象レーダーと雨量計のデータから1kmメッシュ単位で面的に降水量が解析されている「解析雨量」のデータを利用できればより詳細に推定することができます。ただし吾作個人では、直近の「解析雨量」のデータを入手することはできません。ところが、日本気象協会のHPに土石流の起点のメッシュでの7月1日から7月3日までの時刻別の解析雨量のグラフがありましたのでそれを読み取ることにしました(ここを参照)。(そのため、読み取り誤差があることはご留意ください。)

図 網代観測所と土石流起点における2021年7月1日0時を起点とした累積雨量の比較

 2021年7月1日1時を起点として、網代観測点と土石流の起点の2021年7月3日24時までの累積雨量を比較したのが上図になります。2日正午ぐらいまでは両地点で同じような値となっていますが、それ以降は土石流の起点の方が雨量は多くなり、土石流の発生時点(3日10時30分頃)では100mm以上も多くなっていることが分かります。

図 網代観測所と土石流起点における2021年7月1日~3日の土壌雨量指数の比較

 降水量のデータに基づいて2021年7月1日1時~7月3日24時の毎正時の土壌雨量指数を算定した結果を比較したのが上図になります。(なお、土壌雨量指数は7月1日以前のデータも使って評価しないと7月1日1時時点の土壌雨量指数は評価できませんが、「解析雨量」のデータは入手できないため、7月1日0時時点の土壌雨量指数(土壌中の水分量)は網代観測点と土石流起点で同じ値と仮定しました。)
 網代観測所と比較して土石流の起点の方が累積降水量が多いことから、土石流の発生時点(3日10時30分頃)では50mm以上も土壌雨量指数が高くなっています。そして、注目すべきはこの期間の土壌雨量指数のほぼピーク時に土石流が発生しているということです。土砂崩壊の脆弱な箇所においては、ちょうどトリガーがかかる領域に入ってしまったということになるのでしょうか。

 最後に土石流の起点の1kmメッシュでの大雨注意報基準(土砂災害)、大雨警報基準(土砂災害)、土砂災害警戒情報基準と7月1日1時~7月3日24時の土壌雨量指数と時間雨量の推移を重ねた図を示します。なお、メッシュの基準値は静岡県地理情報システムに基づきました。

図 土石流起点メッシュの各警戒レベルの基準値と2021年7月1日~3日の当該地点の時間雨量と土壌雨量指数の推移

 上図より当該メッシュでは7月2日5時には大雨注意報基準を超過し、7月2日10時には大雨警報基準を超過し、7月3日7時には土砂災害警戒情報基準を超過し、その後土壌雨量指数が250mmを超過した7月3日10時30分頃に土石流が発生しました。

 以上、吾作が熱海の土石流に関して分析した内容をまとめると以下の通りです。

 ・土石流の素因としては、起点となった盛土の影響と急傾斜の地形が挙げられる。
 ・土石流の誘因としては、降雨であるが土壌雨量指数で評価すると網代観測所ではここ10年で土石流が発生した2021年7月3日が最も高い値を示した。
 ・網代観測所と土石流起点とでは約9km弱離れており、7月1日から3日の土石流発生時刻の累積雨量を比較すると土石流起点の方が100mm以上も多かった。
 ・7月1日から3日の土石流発生時刻の土壌雨量指数を比較すると土石流起点の方が50mm以上も高い値を示した。
・土石流の発生時刻は7月1日~3日の間の土壌雨量指数のほぼピーク時に当たっていた。
・土石流起点のメッシュの警戒レベルの基準と照らし合わせると7月2日5時には大雨注意報基準を超過し、7月2日10時には大雨警報基準を超過し、7月3日7時には土砂災害警戒情報基準を超過し、その後土壌雨量指数が250mmを超過した7月3日10時30分頃に土石流が発生した。

 なお、土石流起点のメッシュの時間雨量には解析雨量の読み取り誤差、土壌雨量指数の算定には期間の初期値に仮定をおいていることにご留意願います。

                                            以上
 

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